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大阪高等裁判所 平成8年(ネ)81号 判決

控訴人

学校法人聖パウロ学園

右代表者理事

山田右

右訴訟代理人弁護士

猪野愈

被控訴人

暮石一浩

右訴訟代理人弁護士

玉木昌美

野村裕

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二  当事者の主張

次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決四枚目表一〇行目の冒頭に「(一)」、同裏八行目の冒頭に「(三)」をそれぞれ付加し、同裏七行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「(二) 公立学校においては、講師は、正式名称としては、臨時的任用教育職員であり、期限付きの雇傭教員であり、常勤職員と非常勤職員とに分かれ、常勤の講師は教諭と同じ業務に携わるが、私立学校においてもこれに準ずる扱いがされているのである。控訴人においても、昭和六三年四月の創立以来、教員については、教諭、専任講師、非常勤講師の三種に分けて採用され、教諭は期限の定めのない雇傭契約、専任講師は一年間の雇傭契約であり、控訴人は、採用面接時に教諭としての採用か、専任講師としての採用かを明示し、専任講師として採用するものについては、一年間の雇傭契約である旨を明示している。

被控訴人に対する採用通知には、雇用期間の記載がなされていないが、被控訴人と同じ平成四年度の専任講師としての採用者に対する採用通知には雇用期間一年間の記載がなされており、被控訴人に対する採用通知の記載は事務的なミスによるものである。

被控訴人は、昭和六二年四月一日から同六三年三月まで和歌山信愛女子短期大学付属に専任講師として勤務した経験があり、同校において一年間の雇傭契約であったから、控訴人の専任講師として採用されたときにも、同様に一年間の雇傭契約であることを認識していたはずである。

平成五年四月一日改正前の控訴人の就業規則では、第二条において「この規則において職員とは、第五条および第六条の手続きを経て採用された学園の業務に従事する者」とされているのみで、教諭及び講師について規定されていなかったから、専任講師について雇用期間の定めをすることは自由であり、一年間の雇用期間が定められていたのであるが、改正後の就業規則においては、第二条第三項及び第六条において、専任講師の雇用期間が一年間であることが明定されたのである。」

2  同六枚目裏二行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「(4) 中学、高等学校における教育者は、生徒に対する関係では、聖職者としての使命を負っており、その観点から適格性を判断されるべきであり、本件においては、長年教育に携わってきた専門家が被控訴人を不適格と判断しているのであり、その判断は、尊重されるべきである。

(5) 控訴人は、平成八年三月二四日開催の理事会において、平成八年度から宗教科を廃止することを決議した。したがって、控訴人において宗教科の教員を必要としないことになった。」

3  同六枚目裏一〇行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「なお、控訴人は、平成七年三月三一日、六名の専任講師を解雇したが、そのうち三名は、大津地方裁判所に地位保全、賃金仮払いの仮処分を申し立て、認容されている。」

4  同八枚目裏二行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「なお、控訴人が、宗教科を廃止する旨決議したのは、本件に対処するために常識を超える対応をしたものにすぎず、これを理由として被控訴人の職場復帰を拒否することはできない。」

第三  証拠

原審及び当審の訴訟記録中、各証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、被控訴人の本訴請求は、原判決の認容した限度で理由があると判断するが、その理由は次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決九枚目表五行目の「区別する定めはなかった。」の次に「そして、同就業規則には、新採用の職員に対しては、原則として一年間の試用期間を置き、試用期間を良好な成績で勤務したと認められた場合は、正式採用するとの規定がおかれていた(七条)。」を付加する。

2  同九枚目裏九行目の「同年二月一二日に」とあるのを「同年二月一二日ころ、」と改める。

3  同一〇枚目表三行目の「右面接日である」を削除する。

4  同一一枚目裏一行目の「認められるのであるから、」を「認められる。」と改め、これに続けて次のとおり付加する。

「そして、前記就業規則の試用期間の定めと併せて考えれば、控訴人は専任講師の採用に当たっては、臨時の契約により雇用した非常勤講師等と区別して、一年間の試用期間をおいてその適格性を判断したうえ、教諭として採用することを予定していたものと考えざるを得ない。したがって、」

5  同一一枚目裏七行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「控訴人は、公立学校においては、講師は、臨時的任用教育職員であり、控訴人においても同様であるとの主張をするが、公立学校において講師が臨時的な雇傭契約によるものであったとしても、被控訴人の雇傭が期限付きのものでなかったとの右判断を左右するものではない。

控訴人は、被控訴人に対する採用通知に一年間の雇傭契約である旨の記載がないのは、事務的なミスによるものであると主張し、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙五一ないし五五号証によれば、被控訴人と同時期に採用された専任講師五名の採用通知には、平成四年四月一日より平成五年三月三一日まで控訴人の専任講師に採用しますとの記載がされていることが認められるが、これによっても被控訴人に対する採用通知が事務的なミスにより同様の記載がされなかったものと直ちにいうことはできないうえ、仮にこれが事務的なミスによるものであったとしても、右期間の記載は、試用期間の意味であるとも解されるのであって、採用通知の右記載のみで被控訴人の採用が期限付きのものではなかったとの右判断を左右するものではない。

控訴人は、被控訴人が昭和六二年四月一日から同六三年三月まで信愛女子短大附属に専任講師として勤務した経験があり、同校においては一年間の雇傭契約であったから、控訴人においても同様の雇傭契約であることを認識していたはずであると主張するが、信愛女子短大附属に専任講師として勤務した経験があるからといって、直ちに控訴人においても一年間の雇傭契約であることを認識していたことにはならないというべきである。」

6  同一七枚目表九行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「(五) 控訴人は、理事会において宗教科を廃止する旨の決議をしたと主張する。しかし、右決議がされたからといって、被控訴人に対する本件留保解約権の行使が相当かどうかの判断に影響を及ぼすものではない。」

二  よって、右と結論を同じくする原判決は相当であり、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官福永政彦 裁判官井土正明 裁判官赤西芳文)

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